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最高裁判所第二小法廷 昭和54年(行ツ)136号 判決

上告人

山内幸夫

右訴訟代理人

高田良爾

被上告人

東山税務署長

長村勇二郎

右指定代理人

柳川俊一

外八名

主文

原判決及び第一審判決を次のとおり変更する。

被上告人が昭和四八年九月七日付で上告人の昭和四六年分贈与税についてした決定及び無申告加算税賦課決定のうち、課税価格二六〇万円を超える部分をいずれも取消す。

上告人のその余の請求を棄却する。

訴訟の総費用はこれを四分し、その一を被上告人の、その余を上告人の、各負担とする。

理由

上告代理人高田良爾の上告理由について

原審が適法に確定したところによれば、上告人は昭和四六年六月八日訴外亡山内国太郎及び同山内キヌの各相続人らに合計一〇〇万円を支払うという債務の負担附で右相続人らから時価三六〇万円相当の本件土地の贈与を受けたというのであるから、右贈与に係る贈与税の課税価格は本件土地の右時価から右債務負担額を控除した残額の二六〇万円であると解するのが相当である。そうすると、右の場合における贈与税の課税価格が三六〇万円であると判断した原判決には法令の解釈、適用を誤つた違法があり、右違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は右の限度で理由があり、原判決は破棄を免れない。

そして、原審が適法に確定した事実関係のもとにおいては、上告人の本訴請求は、主文第二項掲記の各課税処分のうち課税価格二六〇円を超える部分の取消を求める限度において理由があり、その余の請求が失当であることは明らかであるから、原判決及び第一審判決を主文第二、三項のとおり変更すべきである。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇八条一号、三九六条、三八六条、三八四条、九六条、八九条、九二条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(栗本一夫 木下忠良 鹽野宜慶 宮﨑梧一)

上告代理人高田良爾の上告理由

第一、原判決には判決に影響を及ぼすこと明らかなる法令の違背があるので破棄は絶対にまぬがれない。

一、原判決は、「……その旨を圭二を通じて被控訴人に伝え、それぞれの委任状、印鑑証明書等登記に必要な書類を被控訴人に交付した。被控訴人の支払うことを約した一〇〇万円は現在まだ支払われていないが被控訴人において支払義務があるものである」旨判示している。原判決は、上告人が亡山内国太郎の相続人である山内喜一外四名に対し金一〇〇万円支払う旨約束したと事実を認定し、その事実を前提(贈与の時期を決めるうえではかなり重要な事実認定であると思料される)とし、上告人は昭和四六年六月八日国太郎及びキヌの相続人山内喜一ほか四名から贈与により本件土地の所有権を取得したものであることが明らかである旨明言している。

二、原判決は、「……被控訴人の支払うことを約した一〇〇万円は現在まだ支払われていないが被控訴人において支払義務があるものである」旨判示するのみで右金一〇〇万円の支払義務の法的性格については(一)上告人が本件物件を取得する売買代金としての性格を有する(二)民法第五五三条に定める負担付贈与の「負担」としての性格を有するの二点が考えられる。原判決は、上告人において金一〇〇万円の支払義務がある旨判示する以上右金一〇〇万円の支払義務の法的性格を解明すべきである。

なぜなら右金一〇〇万円が売買代金としての性格を帯有するのであれば、贈与を課税原因とする本件決定処分は違法を免れないことになる。さらに負担付贈与としての性格を有することになるのであれば民法五四九条に規定する単純な贈与とは異なり、税額も異つてくるはずである。

さらに、右金一〇〇万円の法的性格が売買代金でもなく、あるいは負担付贈与の負担でもないとするのであれば、原判決は金一〇〇万円の支払義務をどのように説明しようというのか。原判決の事実認定を前提にする限り、右金一〇〇万円の法的性格は、負担付贈与における負担と解することができるように思料される。

三、原判決は自ら上告人に右金一〇〇万円の支払義務あることを認定しておきながら、判決の結果に影響を及ぼすこと明らかなる法的性格に全く言及することなく、短絡的に被上告人と同じように単純な贈与契約であると判断し、被上告人の本件決定処分を認容してしまつたのである。

単純な贈与契約を課税要件とするのか、あるいは負担付贈与契約を課税要件とするのかは、厳格な意味では課税要件が異るとともに、どちらであると解するかによつて「課税標準又は税額」が異つてくるのである。

第二、以上述べたことから明かなように被上告人は上告人に対し昭和四八年九月七日付で昭和四六年分の贈与税について決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分をなしているがそれらはいずれも単純な贈与契約を前提としているものであり、原判決は判決に影響を及ぼすこと明らかなる法令の違背があるので破棄されるべき運命にあるといわなければならない。

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